現在、日本は「血糖スパイク(食後一過性高血糖)」が活性酸素を生じ血管を傷つけるという血糖スパイク有害説の虚構虚説が多くの糖尿病患者の方々だけでなく糖尿病のない多くの日本人まで苦しめています。
血糖スパイクの有害性は虚構、誤った見解であり「虚説」です。血糖スパイクが活性酸素を生じて血管を傷つけるという科学的医学的根拠はありません。現在日本中が血糖スパイクの虚構に翻弄され日本人が炭水化物中心の伝統的な健康的な日本の食事を捨てようとしています。日本人は「米」を堂々と食べて蘇るべきなのです。大好きなお米を罪の意識で食べておられる全国の糖尿病患者の皆様が当院へ集われんことを期待しております。
最初にはっきりさせておきたいことは、いわゆる「血糖スパイクが有害である」という仮説は科学的証拠がなく、虚説であるということです。この「血糖スパイク」すなわち食後一過性高血糖が現在日本中を覆っている糖質制限の根拠になっているものです。
血糖スパイク(hyperglycemic spike)という表現は2005年にイタリアの研究者が使い始めました。異論のない真実のようによく喧伝されている血糖スパイクや食後高血糖が活性酸素を引き起こすという仮説に対しても測定方法の誤りや対象患者の問題があり、それを真っ向から否定した科学的な研究があるのです。血糖スパイク、食後血糖変動が活性酸素を引き起こすという仮説は2006年にいわゆる一流医学雑誌JAMAに掲載されたフランスの論文が有名でよく無批判に引用されますが、この論文は多くの問題があり、その後2011年にはオランダの研究者達から完全に否定されています。糖尿病の方だけでなく正常者の方を対象とした研究もありますが、やはり血糖変動による活性酸素の差は認めなかったのです。
糖尿病の病態は慢性高血糖つまり一時的ではなく高血糖の状態が続いている病態ですが、慢性高血糖を示唆する検査値として「早朝空腹時血糖」と「ヘモグロビンA1c」があります。早朝空腹時血糖は食事の影響を受けない血糖値の代表として、持続的血糖上昇を反映する値として、糖処理の基礎能力を表す値です。「ヘモグロビンA1c HbA1c」は過去1~2カ月の血糖値の平均を示す検査として過去の多くの研究に使われており糖尿病合併症との因果関係が証明されています。
しかしながら「血糖スパイク」「食後の一過性高血糖」すなわち「食後の短時間の血糖上昇」が糖尿病の合併症発症にどこまで影響しているかの評価はまだ定まっていません。食後の血糖値は食事内容とその時の体調によって大きく変わり変動の大きいものです。炭水化物だらけの日本の伝統的食事を考えてみても、炭水化物摂取後の短時間の血糖上昇が血管を傷つけるとは経験的常識的にも考えにくいものです。
1997年米国糖尿病学会が糖尿病の診断基準を負荷後2時間値ではなく早朝空腹時血糖で行うことを発表しました。その最大の根拠は負荷後2時間値の再現性のなさでした。それに対する反発として1999年日本のFUNAGATA研究、2001年欧州のDECODE研究、2002年アジアのDECODA研究などの疫学研究でブドウ糖負荷試験2時間値と心血管イベントとの関連性が指摘されました。
これらの疫学研究が食後一過性高血糖の有害性の証拠のように唱えられていますが、これらはあくまで関連性であり因果関係は全く証明されていないのです。 「関連性は因果関係を証明しない。Correlation does not mean causation.」というのは疫学の根本原理ですが、実際にはしばしばこの原則を無視した主張が行われています。
「血糖スパイク」「食後の一過性高血糖」を糖尿病の病態の原因に正式に加えるためにはいわゆる科学的と言われている「介入試験」により実証されなければなりませんが、それらが悉く失敗しています。
過去20年近くの研究にも関わらず、その有害性をどうしても証明できないのです。
過去に私は糖尿病学会でもこの点を日本の研究者達へ繰り返し問うてきましたが、誰もがその通りであると認めています。米国糖尿病学会が毎年発表しているガイドラインでも血糖スパイク、食後高血糖が心血管障害を引き起こすという証拠はないとしています。
その根拠となった決定的な研究は2009年米国の「Heart2Dstudy」です。インスリン治療により食後血糖を低下させた群と空腹時血糖を低下させた群でHbA1cをほぼ同一にして約3年間経過を追った無作為介入試験で心筋梗塞発症の差はなかったのです。2010年の耐糖能異常を対象とした経口薬ナテグリニドを使用したNAVIGATOR研究でも同様の結果でした。
更に決定的なのは、2003年に発表された問題のあるSTOP-NIDDM研究の追試でもある2017年オックスフォード大学と中国との共同研究「ACE研究(The acarbose cardiovascular evaluation trial)」です。この研究においても耐糖能異常に対するアカルボース投与による心血管イベント抑制は認められなかったのです。以後、血糖スパイク、食後高血糖や血糖変動と心血管疾患に関する正式な介入試験は行われていません。
血糖スパイク、食後の一過性高血糖の有害性が否定されれば今流行りの糖質制限の理論的根拠は崩壊してしまいます。糖質制限を執拗に主張している医師達の論理はいわゆる「仮説の上に仮説を築く」という砂上の楼閣的な論理なのです。