高脂肪食は免疫を狂わせる|福岡市博多区内科・糖尿病内科 | 山本診療所

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院長コラム

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高脂肪食は免疫を狂わせる。 なぜ新型コロナウイルスによる死亡率が欧米で高いのか?

院長コラム2020.12.30

新型コロナウイルス感染による死亡率が欧米と日本を含む東アジアで約100倍もの極端な差があることが注目されています。どうして欧米での死亡率が高いのか?

 

現在世界中から新型コロナウイルス感染の重症化の原因に関する研究論文が発表されています。その一つとして、高脂肪食( High fat diet )が新型コロナウイルス重症化の原因の一つであるという仮説が提唱され始めています。脂質は免疫に大きな影響を及ぼすのです。

 

具体的には、高脂肪食の中でも飽和脂肪酸コレステロールが多い食事が問題になっています。

 

脂肪酸( fatty acid )」は、炭水化物におけるブドウ糖、たんぱく質におけるアミノ酸と同様に、脂肪における基本単位として捉えることができ、皮下脂肪や内臓脂肪を構成する中性脂肪は脂肪酸とグリセロールというアルコールがエステル結合したものです。高脂肪食について考える際には脂肪酸について理解する必要があります。

 

脂肪酸(CCOOH)は炭素元素(C)と水素元素(H)が鎖のようにつながり最後尾にカルボン酸( COOH )という酸が結合しています。肉や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸( saturated fatty acid )は炭素と水素がすべて一重結合( single bond )で繋がっており炭素原子が水素原子で飽和している脂肪酸です。パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸などがあり、常温では固形です。不飽和脂肪酸( unsaturated fatty acid )は炭素と水素が二重結合( double bond )でつながっている部位があり、水素原子が少なく炭素原子は水素原子に飽和されていない脂肪酸であり、常温では液体です。二重結合が一つだけのものを一価不飽和脂肪酸、多数あるものを多価不飽和脂肪酸といいます。一価不飽和脂肪酸はオレイン酸いわゆるオリーブ油などです。多価不飽和脂肪酸はn-3系とn-6系などに分類されており、n-3系にはα-リノレン酸、エイコサペントエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などがあり、n-6系にはリノール酸、γリノレン酸、アラキドン酸などがあります。n-3系は抗炎症作用、n-6系は概して炎症促進作用があると考えられています。n-3、6とは脂肪酸の頭部のメチル基( CH3 )から数えて3番目、6番目に最初の二重結合があることを示しています。

 

免疫機能には、自然免疫( innate immunity )獲得免疫( adaptive immunity )の二段階があると考えられています。自然免疫は、好中球(白血球)、貪食細胞、NK細胞、樹状細胞などによる病原体侵入に対してまず最初に働く防御機構です。自然免疫は「炎症(inflammation)」と直接的抗ウイルス反応という二つの防御機構を持っています。「炎症」とは、白血球(好中球、単球など)と血漿タンパクを感染局所に呼び寄せ活性化して病原体を破壊排除する防御機構であり、その際、免疫系細胞からサイトカイン( cytokine )という免疫に関与する情報伝達蛋白分子が分泌されます。サイトカインにはTNF,  IL-1,  IL-6などの炎症性サイトカインや抗炎症性サイトカインなどがあります。更に自然免疫系から危険信号が発信された場合、獲得免疫が稼働開始してBリンパ球により産生される抗体による体液性免疫やTリンパ球が分化した細胞障害性T細胞などによる細胞性免疫により病原体を特異的に駆逐(clear )していくことになります。また炎症性サイトカインはTリンパ球からも分泌されます。

 

高脂肪食特に飽和脂肪酸が自然免疫を過剰に刺激して慢性炎症を引き起こすことが指摘されています。いわば高脂肪食(飽和脂肪酸)により自然免疫が狂うのです( dysregulation )。飽和脂肪酸が肺の貪食細胞を増加させ炎症を増悪させることも動物実験で示されており、高脂肪食が肺の感染症を増悪させることは新型コロナウイルス流行前に既に研究されていました。

 

更に高脂肪食(飽和脂肪酸)は獲得免疫を低下させます。その結果、Bリンパ球による体液性免疫やTリンパ球による細胞性免疫が十分働かないためウイルスが除去できずさらに炎症が激しくなっていくのです。このような病態をサイトカインストーム( cytokine storm )と言います。炎症性サイトカインが大量に放出された病態です。そしてサイトカインストームはARDS( acute respiratory distress syndrome )と呼ばれる致死的な急性呼吸不全や多臓器不全を引き起こしていきます。

 

また高脂肪食は腸にも悪影響を及ぼし腸内細菌を変化させることが知られています( dysbiosis )。Bacteroidesに対してFirmicutesという細菌の増加が特徴とされておりその結果,腸粘膜透過性( intestinal permeability )が亢進して、腸内細菌の毒素( endotoxin )、主にlipopolysaccharideが全身に回り常時慢性炎症を引き起こしている状態となるのです( endotoxin induced inflammation )。

 

「慢性炎症」がある状態に新型コロナウイルスの感染が起こると、激しい炎症が全身に引き起こされると考えられています。すなわちボヤだったのが大火事になるという状態です。新型コロナウイルス感染で重症化のリスクの高いのは、肥満糖尿病高血圧、そして高齢者と多くの論文で指摘されていますが、これらはすべて慢性炎症が潜んでいる病態です。そして高脂肪食が肥満、糖尿病、高血圧を引き起こします。肥満が重症化リスクであることにもっと注目する必要があり欧米で新型コロナウイルス感染の重症化が多いのは肥満が多いためであると考えることも可能です。

 

また細胞膜のコレステロールが多いと「ACE2受容体」を通じて新型コロナウイルスの侵入を促進するという仮説も提唱されています。新型コロナウイルスはコレステロール依存性( cholesterol-dependent mechanisms )に細胞内へ侵入していくというのです。高齢、高脂肪食そして慢性炎症が細胞膜のコレステロール負荷( cholesterol loading )を引き起こしACE2受容体と結合することにより新型コロナウイルスを侵入させることになるのです。子供の感染や重症化が少ないこともコレステロール負荷が少ないことが原因である可能性があります。

 

Angiotensin-Converting Enzyme 2( ACE2)はRenin-angiotensin system( RAS )の抑制的調節因子としてAngiotensin-Converting Enzyme 1( ACE1 )と競合して肺、鼻粘膜、口腔粘膜、心臓、血管、腎臓、腸、脂肪組織などに存在し血管拡張や抗炎症作用などによりこれらの臓器を保護する役割を果たしています。しかしこのACE2は新型コロナウイルスの受容体であることも判明しています。肥満はACE2を増加させるため新型コロナウイルスに感染しやすいとも考えられています。しかし一旦感染すると新型コロナウイルスによりACE2受容体が占拠され逆にACE2の機能低下が引き起こされることになるのです。そしてその結果ACE1が上昇して「アンジオテンシンII( Angiotensin II )」が多く産生され血管収縮、酸化ストレス、炎症、血栓などを引き起こすことになり多臓器不全の病態になっていきます。RASが活性化して病態を更に重症化していくのです。新型コロナウイルス感染症における重症化にはこの「Angiotensin II」が関与していると指摘されています。

 

欧米の高齢者と東アジアの高齢者では脂肪摂取量が大きく違うであろうことは容易に想像がつき、高脂肪食が新型コロナウイルス感染による重症化の大きな差の原因であるとする仮説は説得力があるように思えます。そして日本でも高脂肪食の摂取肥満が新型コロナウイルス重症化の危険因子であることを改めて広く認識する必要があり食事と運動による改善を早急に図るべきであると考えられます。

 

また飽和脂肪酸とは逆に、DHAやEPAなどのn-3系不飽和脂肪酸は炎症を抑制する作用が示されており、魚の摂取はよいということになります。すなわち、米、野菜、豆、魚で構成されている伝統的和食(高炭水化物低脂肪食)が新型コロナウイルスのこの時期を乗り越える重要な手段であることが示唆されます。

 

21世紀になりグローバリズムの広がりと共に欧米を中心に飽和脂肪酸やコレステロールなど脂質は悪くない、炭水化物が悪いという論調が席捲していましたが、現在、新型コロナウイルスによる欧米での死亡率の高さが、高脂肪食に対する猛反省を促しつつあると感じています。そして低炭水化物食は必然的に高脂肪食となることに気づく必要があります。今後日本人は高炭水化物低脂肪食(ただし炭水化物は砂糖、果糖などの単純糖質ではなく米などの複合糖質)という伝統食への回帰を深く考えるべき時期にきていると考えています。特に糖尿病の方は、高脂肪食により糖尿病が増悪し、更に新型コロナウイルスにおける感染重症化の危険性もでてきます。全体像を見ることがどんな時でも大切です。

 

 

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