糖尿病とは
人間の細胞で最も重要なエネルギー源はブドウ糖です。そのブドウ糖を筋肉などの細胞内へ取り込むのに必要な唯一のホルモンがインスリンです。インスリンは膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞で作られるホルモンです。インスリンは細胞膜のインスリン受容体と結合して生理的働きが始まります。このインスリンの量の不足や働きが悪くなったときにブドウ糖が細胞内へ取り込まれず、慢性的に血液中のブドウ糖濃度が異常に上昇(高血糖)し、尿から排泄され(尿糖)、糖尿病という状態になります。
免疫異常でβ細胞が破壊されインスリン分泌量が著明に低下し、生命維持にインスリン治療が必要となる病態を1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)といいます。また生命維持にインスリン治療は必要ではないが、インスリン分泌量が相対的に低下したり(インスリン分泌障害)、細胞がインスリン作用を感じなくなった(インスリン感受性低下、インスリン抵抗性)病態を2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)といいます。日本人では糖尿病の95%以上が2型糖尿病であるといわれています。
増加している2型糖尿病の原因
2型糖尿病の原因には、インスリン分泌障害とインスリン感受性低下(インスリン抵抗性)があります。どちらが先かに関しては多くの議論があります。日本人は、遺伝的にインスリン分泌能が低いと従来言われていましたが、そうではないという論文もあります。私は日本における糖尿病患者急増の原因は、インスリン感受性低下によるインスリン作用不足であると考えています。
その原因として、車社会における運動量の低下、座位によるデスクワークの増加、連日飲酒による内臓脂肪増加、乳製品を含む脂肪摂取量の増加が指摘されています。糖尿病の遺伝歴がある方だけでなく、遺伝歴がない方も細胞のインスリン感受性低下により高血糖となり、食後30分位のインスリン早期分泌が低下していきます。しかし食後1~2時間位の後期分泌はむしろ亢進している場合も多いのです(食後高インスリン血症)。そして高インスリン血症は動脈硬化や悪性腫瘍の発症増悪に関係することが指摘されています。
糖尿病の前兆や症状
1型糖尿病の場合、ケトアシドーシスという重篤な病態で発症することがあり、吐気、下痢、食欲不振などの消化器症状が初発症状の場合がありますので注意が必要です。
2型糖尿病の場合、典型的には、喉が渇く、尿の量が多い、疲れやすい、痩せてくる、などの症状が出現してきます。また傷の治りが遅い、湿疹、歯周病、膣カンジダ症、視力低下、足のしびれなどもあります。しばしば体重増加が発症の引き金にもなっています。しかしながら、2型糖尿病の大部分は無症状であることを忘れてはなりません。症状は当てにならないのです。
糖尿病治療の必要性
慢性の高血糖が続くと血管障害が起こります。小さな血管に起これば、網膜、腎臓、神経が障害を受けます。失明、腎不全による血液透析の状態に至ることもあり、足の痺れに悩まされ、自律神経障害による突然死の危険性も出てきます。また大きな血管に起これば、心筋梗塞、脳卒中、足の壊疽の原因ともなります。更には糖尿病には癌の発症も多いことがわかっており、特に肝臓癌、膵臓癌、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、子宮体癌、膀胱癌が多いと言われています。また高血糖は免疫能低下を引き起こし重篤な感染症にかかりやすくなります。その他には、骨粗鬆症、歯周病、認知症を起こしやすいと考えられています。
以上の病態を防ぐために早期の血糖降下治療を始めなければなりません。2型糖尿病の問題点は、高血糖を放置しておくことによって膵β細胞量減少が進行していくことです。高血糖は膵β細胞に対して毒性があり障害を与えます。更に高血糖はインスリン抵抗性を増悪させるともいわれています。糖尿病は進行性の病気なのです。そのため放置しておけば膵β細胞は減少しインスリン治療が必要な病態までになることもあります。逆に言えば、まず血糖を正常に近づければ膵β細胞は復活する可能性があります。悪循環を逆転することができます。糖尿病の進行を抑えることが可能になります。ですからできるだけ早く発見して治療を開始することが最も大切です。早く診断されればされるほど良いのです。
糖尿病の検査値の読み方
糖尿病の基本的検査には、尿糖、血糖、ヘモグロビンA1cの三つがあります。
- (1)尿糖 膀胱に溜まっていた尿中の糖を調べる検査です。
- 通常血糖値が160~180mg/dlを越えると尿に糖が出ます。
ですから血糖が正常でも尿糖が出ていれば測定時より以前には高血糖であったと推測できます。ただし腎性糖尿という正常血糖でも尿糖が出る病態もあります。
- (2)血糖 血液中のブドウ糖濃度を測定する検査です。
- 血漿での正常値は70mg/dl~140mg/dlと考えられています。
- 血糖コントロールの従来から言われている基準は朝食前血糖140mg/dl未満、食後随時血糖200mg/dl未満です。ただし最近は朝食前110mg/dl未満、食後随時血糖を160mg/dl未満にすべきであるという特に食後血糖に対するより厳しい考え方もありますが、食後高血糖の病的意義に疑問も出されています。
- 参考文献
- 山本哲郎「75gブドウ糖負荷試験2時間値の問題点と食後高血糖の再評価 前日の炭水化物摂取量の影響について」 第59回日本糖尿病学会抄録
- (3)ヘモグロビンA1c(HbA1c) 酸素運搬蛋白であるヘモグロビンがブドウ糖とどの位結合しているかを示す値です。
- 約1~3ヶ月の血糖の平均値を示すと言われています。
- 正常値は厳密には5.5%以下(NGSP)と考えられています。6.5%以上(NGSP)は糖尿病の疑いが濃厚です。
現在、世界的な糖尿病コントロールの基準は、7%(NGSP)未満となっています