院長コラム2018.12.16
血糖変動(glucose variability)が大きいと活性酸素を生じ酸化ストレスを引き起こすことがあたかも真実のように唱えられています。しかし過去の文献を調べてみると、これはあくまで仮説であり血糖変動は酸化ストレスとは無関係であるとした研究も数多くあることがわかります。
血糖変動と酸化ストレスとの関係は2006年にフランスのMonnierが指摘しています。2型糖尿病患者で酸化ストレスのマーカーとして尿中8-iso PGF2αという物質を測定して、血糖変動が酸化ストレスを増加させるとした論文です。しかしながら、この研究では平均HbA1cが9.6%と血糖コントロールが極めて悪い集団を対象としていました。
それに対して2011年にオランダのSiegelaarは平均HbA1c6.9%と血糖コントロール良好な2型糖尿病集団を対象に同様な研究を行っています。その結果血糖変動と酸化ストレスの関係は認められなかったのです。Siegelarrはtandem mass spectrometryという特異的で感度の高い方法で尿中8-iso PGF2αを測定しています。そしてMonnierの尿中8-iso PGF2αの測定方法(enzyme immunoassay)には特異性に問題があることを指摘しています。すなわち結果そのものに対する信頼性が低いということを示唆しています。
また血糖変動は通常1型糖尿病のほうが2型糖尿病より大きいと考えられますが、2008年オランダのWentholtが1型糖尿病を対象としたtandem mass spectorometryを使った同様の研究でも血糖変動と酸化ストレスとの関係はなかったことを報告しています。しかもこの集団も平均HbA1c 8.1%と血糖コントロールは不良です。ただし非糖尿病群と比較して酸化ストレスは増加していました。
仮に血糖変動が活性酸素を生じさせるとしてもHbA1cが高値の血糖コントロール不良の場合であり、治療によりHbA1cを低下させれば血糖変動に過敏になる必要はないということになります。そして治療目標はあくまでHbA1cの低下を目指せばよいことになります。患者のストレスを考慮するとこの点は臨床的に非常に重要であり大いに議論すべきところです。
更に突き詰めれば、血糖変動のより大きい1型糖尿病で血糖変動と酸化ストレスの関係が認められなかったことは、酸化ストレスを生じるのは血糖変動ではなくあくまで慢性的な高血糖の状態であるという結論も導くことができます。