院長コラム2018.12.30
現在インスリン抵抗性(insulin resistance)という言葉が広く受け入れられていますが、インスリン感受性低下(insulin insensitive)という表現を使うべきであると主張したのは英国のHimsworthです。Himsworthは1939年に33ページにおよぶ論文で糖尿病をインスリン感受性(insulin sensitivity)の視点で二つに分類できるという画期的研究結果を発表しています。
ひとつはインスリン感受性の鋭いタイプ(insulin sensitive type)、他はインスリン感受性の鈍いタイプ(insulin insensitive type)です。
Himsworthは「インスリンーブドウ糖試験(insulin -glucose test)」というインスリン感受性を調べる検査を考案して34人の糖尿病患者のインスリン感受性を調べました。血中インスリン濃度の測定がまだ開発されていなかった時代に考案された先駆的な方法です。これは患者にインスリンを経静脈的に注射した後直ちにブドウ糖溶液を飲んでもらい、その後の血糖の変動を調べる方法です。その結果、インスリンが直ちに効いて血糖が下がるタイプ(insulin sensitive type)と、インスリンが遅れて効いてしかも血糖が下がりにくいタイプ(insulin insensitive type)に分けられたのです。そして、insulin sensitive type はインスリン量の低下によって糖尿病となっている病態、insulin insensitive typeはインスリン感受性低下によって糖尿病になっている病態と考えました。臨床的にはinsulin sensitive typeは若年者に多く、やせ型で、ケトアシドーシスになりやすく、急性発症するという特徴があり、すなわち今日で言う1型糖尿病の概念です。insulin insensitive typeは中年に多く、肥満で、ケトアシドーシスになりにくく、徐々に発症するという特徴があり、すなわち今日で言う2型糖尿病の概念です。
Himsworthの鋭い点は、インスリン感受性の変化についてインスリン感受性を高める因子(insulin activator)があるのか、それともインスリン感受性を妨げる因子(insulin inhibitor)があるのか二つの可能性を考えたことです。インスリン抵抗性という表現は、単に大量のインスリンを使わないと血糖コントロールが困難な場合に既に使われていたことや、insulin inhibitorが原因であるという意味にとられることよりインスリン感受性低下という表現が好ましいと主張しています。
1960年代になりラジオイムノアッセイ(RIA)による血中インスリン濃度の測定が可能となりました。その結果、インスリン分泌量低下とインスリン感受性低下の程度が2型糖尿病では様々であり一様ではないということがわかってきましたが、日本では未だにインスリン分泌量低下に注目が集まり、インスリン感受性の視点は希薄な状況です。
インスリン感受性低下から糖尿病の病態を見た場合、その治療としてインスリン感受性改善が本質的治療になり、食事療法もより高い次元で考えることができ、薬物療法ではインスリン感受性改善薬(insulin sensitizer)であるピオグリタゾンの重要性が理解できるようになります。