院長コラム2018.11.04
1935年に英国のHimsworthが、糖尿病になる前に患者はどのようなものを食べていたかという臨床的に重要な研究を発表しています。
この21ぺージのHimsworthの論文を読むと彼の研究への情熱と明晰さがよくわかりますが、この研究には時代を超えて煌めくものがあります。
この研究は、糖尿病患者が糖尿病になる前にどのようなものを食べていたかを調べ、糖尿病ではない対照者の食事と比較した「患者ー対照研究」です。
患者群131名、対照群131名に対して定性的かつ定量的に綿密な食事調査を行っています。
定性的調査では、まず食べ物の好みについて、家族または友人から、「甘党」、「肉に目がない」、「脂っぽいものが大好きな人」などと言われたことがないかと尋ねました。
更に「ジャムあるいはマーマレードが好きか」「どんな肉が好きか、脂身の多い肉か、少ない肉か」「バター、クリームが好きか。パンに塗るバターの厚さはどうか」などの質問も行っています。
結果は、糖尿病になった人は脂肪の多い食品を好む傾向があるというものでした。糖尿病群にはパンにバターを塗って食べるだけでなく、しばしばバターそのものを食べていた人も多かったといいます。逆に対照群では、34%が甘いものを好み、そのうち13人はジャムやマーマレードが大好きでいつもたくさん食べていましたが、糖尿病群にはそのような極端な甘いもの好きはいなかったのです。
定量的調査の結果は、総摂取カロリーに対する炭水化物のカロリーの割合( the percentage calories )は対照群が糖尿病群より多かったが、脂肪は逆に糖尿病群が対照群より多かったというものでした。またタンパク質は、糖尿病群と対照群で差はありませんでした。食事の絶対量の申告は調査した時の食欲に影響を受けるので信頼に欠けるため各栄養素の割合( the proportionate constitution of the diet )で判断すべきであるとするなど正直詳細にこの研究の正確さを追及しています。
いずれにしても結論は、「甘いもの(炭水化物)」の好きな人が糖尿病になるわけではなく、むしろ「脂っぽいもの(脂肪)」を好む人が糖尿病になりやすいというものでした。
この研究によると「甘いものを食べると糖尿病になる」という俗説は真実ではないことになります。ただし実際の臨床では「甘いもの」と「脂っぽいもの」両方が好きであるという方が多いのも事実ですので、「甘いものが好き、ご飯が好き」だけを聞いて脂っぽいものについての嗜好を聞かなければ判断を誤ることになります。