院長コラム2019.08.03
福冨稔明先生は私の漢方医学の師です。先生の「瘀血」に関するご講義の拝聴を機に弟子入りさせていただき、何年もの間先生の許へ通いながら漢方医学を学び、その後日本東洋医学会漢方専門医の資格を取得しています。福冨稔明先生は名医として知られた山本巌先生の高弟として新しい科学的漢方医学を確立されようとしておられました。
福冨稔明先生は、この新しい山本巌流漢方医学を私欲なく惜しみなく私にお教えくださいました。「まるで漢方シャワーを浴びているようだ」というのが当時の私の素直な印象です。不慣れな漢方用語や生薬名、方剤名をシャワーのように私に浴びせてくださいました。
山本巌流の漢方医学は、曖昧であった生薬の薬理を現代医学的に可能な限り明らかにして、病態に対して論理的に処方を決めていくことを試みています。更に自然科学の根本条件である再現性を漢方医学にも実現しようという壮大な医学の革命を志していました。そして現代医学では説明しようのない漢方独自の病態、例えば「瘀血」などは漢方医学独自の病態理論として取り入れようとしています。「瘀血」を循環不全と見なすだけでなく駆瘀血剤を投与して治る病態であるという帰納的論理には感銘を受けました。また「寒」や「水滞」を現代医学では十分認識されていない病態として捉えています。「気虚」は機能低下特に消化吸収機能低下であり「血虚」は栄養不良や老化などによる物質的不足であり、「気滞」は精神的ストレスだけでなく中空臓器平滑筋の攣縮であるという病態把握も明快でした。このような漢方医学独自の病態把握を理解することにより現代医学とは違った視点からの病態へのアプローチが可能になります。
私は福冨稔明先生からこの山本巌流漢方医学の情熱を学び、生薬を自家薬籠中のものとすることができました。治療の選択に化学薬品だけでなく生薬を加えることにより臨床医学を更に芸術的なものにすることも可能になります。
惜しみなく自然科学としての漢方医学をお教え下さった福冨稔明先生に深く感謝し、日本独自の芸術的科学的臨床医学の発展に貢献していきたいと決意しています。