米国内科学会の糖尿病ガイドラインについて|福岡市博多区内科・糖尿病内科 | 山本診療所

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院長コラム

Doctor's column

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米国内科学会の糖尿病ガイドラインについて

院長コラム2018.10.06

2018年、伝統ある米国内科学会(American College of Physicians ) が糖尿病の治療目標についてのガイドラインを発表し話題になっています。治療目標の個別化を前提としながらも2型糖尿病の妊婦以外の大半の患者で薬物治療を行った場合のHbA1cの目標を従来の7%未満から7を超え8%未満へ変更したのです。

過去に発表されている米国糖尿病学会を含む六つのガイドラインを独自に検討し、ACCORD, ADVANCE,UKPDS,VADTといった糖尿病の大規模臨床試験を再評価した上での結論です。

 

医師が患者の血糖コントロール目標を決めるに当たり以下の六つの視点を強調しています。

 

1)benefits and harms of pharmacotherapy 薬物療法の利点と害

 

harmという表現が特徴のように思います。通常はadverse effectとかdisadvantageとか無難な表現が多いのですが、harmという表現を使うことにより医師としてより患者の立場に立とうとする内科医としての誇りを感じさせます。

 

2)patient’s preferences

 

患者の望む方向とでも訳すべきでしょうか。患者の人生や治療に対する考えを大切にすべきであるということでしょうか。ここにも患者の立場に立とうとする姿勢が感じられます。

 

3)patient’s general health 患者の全身の健康状態

 

血糖だけを見ずに全身状態を診て判断しようということでしょう。従来より指摘されていたいわゆる糖尿病専門医に対する警告ともとらえることができます。

 

4)life expectancy 寿命

 

期待できる今後の寿命を加味して考えるべきであるということでしょう。特に高齢者の厳格すぎる血糖コントロールの是非は検討すべきであるということです。

 

5) treatment burden 治療の負担

 

精神的ストレスや経済的負担など薬物療法の患者への負担を考慮すべきであるということでしょう。ここにも立ち位置を患者のほうに置く姿勢が見られます。

 

6)costs of care 治療の費用

 

米国と日本との保険制度の違いを考慮するべきですが、米国の場合は保険会社の負担も念頭に置く必要があるのではないでしょうか。

 

 

ヘモグロビンA1cを7%未満にしなかった根拠として、過去の大規模臨床試験において死亡率や心筋梗塞や脳卒中の発症だけでなく、細小血管障害である網膜症、腎症に関しても決定的な証拠がないということを述べています。更に7%未満を目指すことによって薬物療法の害が出てくる危険性があるという考えです。更にはHbA1cが6.5%未満になったら薬物療法の減量減薬も検討すべきであることを強調しています。

 

このガイドラインを読んで複雑な思いに駆られたのは私だけではないと思います。好意的な視点からは、内科医としての誇りを持ち患者の立場に立ち患者を守っていこうという姿勢を感じることです。しかし批判的な視点からは、いわゆる大規模臨床試験の結果にとらわれたEBM( Evidence-based Medicine )に立脚しすぎており、長年蓄積された多くの医師達の経験的知恵が考慮されてないのではないかと感じます。米国医療の現実に沿った割り切り過ぎた冷たさも内包しています。日本糖尿病学会は、高齢者は別として、少なくとも網膜症などの細小血管障害を抑制するためにも7%未満が望ましいという方針を長年打ち出していますが、私も経験上そのほうがより希望のある完璧を期すことができると考えています。

 

このガイドラインを読んだ後の全体的な印象は、米国の現実と米国医療の物悲しさです。高額な医療費と日本とは違うその保険制度により、誰もが元気で長生きしていけるよう最善の医療を行おう受けようとした状況ではないことを暗に感じさせられるからです。日本の世界に誇るべき保険制度に対する新たな感謝の念がこみ上げてきます。