院長コラム2017.08.14
ピオグリタゾンは日本だけが約17年前に奇跡的に作ることができたインスリン抵抗性改善薬です。Insulin sensitizer(インスリン感受性改善薬)として実質上は世界で唯一の薬剤です。2型糖尿病の病態(インスリン抵抗性)に直接アプローチする薬剤であり、心筋梗塞や脳卒中を予防する効果は現在ある糖尿病治療薬の中で最強であると考えています。しかしながら約5年前にフランスでピオグリタゾンが膀胱癌を引き起こすという論文が発表され、いきなりフランスでは発売停止になりました。この論文には疫学の専門家から論文そのものに問題があるという批判がでていました。その後、10年間の前向き試験の結果が発表され膀胱癌の発症に差はなかったのです。
江戸時代、御典医たちは、保身のために当り障りのない弱い漢方を使ったため難しい病気は治せないことが多かったそうです。しかし、町中には、その病気に有効であれば勇気をもって強めの漢方を用い多くの患者を治した名医がいたと聞きます。
ピオグリタゾンは、膀胱癌事件のため、十分な経験とその有効性に対する確信、そして医師としての理想と勇気をもっていないと使用しにくい薬物になっています。まさに医師の力量を問われる薬剤です。いつの時代にも高い理想をもった医師には経験と理論に基づいた勇気が必要なのです。